四方山話 2 of 鎹



 四方山話 其の弐  —— 拍手用小話 ——



「お義父さん、あなた、リクオ!お風呂が沸きましたよ〜!」



 若菜にそう言われ、ぬらりひょん、鯉伴、リクオの三人は仲良く風呂に入っていた。



昼リクオ「…なんか、親子水入らず、だね…」
鯉伴「なにも一緒に入らなくても…」
ぬらりひょん「親子水入らず、と言うなら若菜サンも一緒に——
ボコッ。
ぬ「ナニをするか、この馬鹿息子が!」
鯉「やらしいコト考えてんじゃねぇよ!」
ぬ「なにが、やらしい、じゃ。やらしいコトを考えとるのはお前じゃ」

鯉「それにしても…お前、なんで昼の姿のままなんだい?もう陽はすっかり沈んじまってるってのに…」
昼リ「あ…これ…。…ちょっと諸事情があって…(汗)」
ぬ「諸事情とはなんじゃ?」
昼リ「夜になるとさ…髪の量増えちゃうからシャンプーするの面倒臭くなるんだよね」
鯉「そーだよなぁ、リクオ。髪が多いと大変だよなぁ?いいよな、ハゲは楽で!(ニヤリ)」
ぬ「なんじゃ、鯉伴…その目は…」
昼リ〈…えっ!?お父さん、そんなあからさまにハゲって…マズイよ…(汗)〉
鯉「親父はハゲで楽そうだなって思っただけ。俺もリクオも髪多くて大変だから」
ぬ「心配せんでもお前等もじきハゲになる運命じゃ。ハゲは遺伝すると言うからのぅ。笑っていられるのも今のうちじゃ」
鯉•昼リ「げっ!?」
昼リ「ボクよりも…お父さんの方が切実だよね?ボクは1/4だけど、お父さん…1/2だよ?それにボクはまだ子供だけど…お父さん400越えてるんだよね…(滝汗)」
鯉「変わりゃしねぇ!この、どアホ!(怒)」
昼リ〈…お父さん、なんで怒ると関西弁…(汗)〉
ぬ「やれやれ、機嫌が悪いのぅ鯉伴。リクオ、背中流してくれんかの?」










 風呂から上がった三人は仲良く中庭の濡れ縁で涼んでいた。
 丈は違うがお揃いの浴衣に袖を通した奴良家三代。
 三人の中でただ一人、肩にバスタオルをかけているのは鯉伴。タオルの上に、長い黒髪を垂らしている。
「流石に、濡れてる時はなびかないんだ、髪」
 どこかおかしそうに昼の姿のままのリクオが父に問うた。
「…しょうがねぇだろ」
「だからドライヤーで乾かしたら?って言ったのに」
「好きじゃねぇって言ってんだろ」
 風呂から上がったおり、父の濡れた黒髪が重たそうだったので、リクオはドライヤーをかけてやろうかと声をかけたのだが、凄まじい勢いで拒否されてしまったのだ。ドライヤーが嫌いならしい。
「だったらせめてしっかりタオルで拭かないとさ…」
 拭いてあげるよ、とリクオが手を伸ばせば——
「要らねぇ」
 またもリクオは拒否られる。
「こやつはな、リクオ、若菜にしか触らせんのじゃ…。のぅ鯉伴?」
「…うるせぇ」
「しょうがないのぅ…若菜サンを呼んできてやろうかの?」
 ワガママじゃからのぅ、とニヤリ意地悪く笑い、ぬらりひょんは腰を上げる。
「余計な事してんじゃねぇ!つーか、ワガママってなんだよ!?リクオの前でそういうコト言ってんじゃねぇよ!」
 父親の威厳が丸つぶれだろうが!と鯉伴は父•ぬらりひょんにくってかかっている。そんな父•鯉伴をリクオは困った顔で見ていた。
「えっと…あの…お父さん…ボク、ちっとも気にしてないから、大丈夫だから」

——あぁ…なんか面倒臭い、お父さん。つーか、お父さんってこんな人だったっけ?ブランクあり過ぎて付き合い方っていうか…なんかよく解らないよ…——

 風呂に入って汗を流したばかりだというのに、リクオは嫌な汗をかいていた。










「あらあら、またそんな事を?」
 若菜は鯉伴の後ろに座り、その長い黒髪をタオルで拭き乍らクスクスと笑った。
「笑うんじゃねぇよ」
「けれど…濡れているのになびいていたら…それはそれでビックリするけど?」
 夫の髪を拭く手を止めて、若菜は夫の顔を覗き込んだ。
「それに、あなたの髪が肩に垂れるのは濡れた時だけじゃないじゃない?」
「…あ…。…それ、リクオに言うなよ?」
「私は、新月のあなたも大好き」
 鯉伴の耳元で若菜は囁いた。
「だから、言うんじゃねぇ」
「誰も聞いてないわよ」
「解らねぇじゃねぇか」
「誰に聞かれるって言うの?」
「例えば——
「たとえば?」
「親父とか…親父とか…親父とか、あとリクオとか…」
「ありえない」
 若菜はクスクスと笑う。
「何言ってんだ、あいつらはな、畏れをつかうんだぜ?」
「あなたもねー」
 若菜はまたクスクスと笑い乍ら、やんわりと突っ込んでみるが、はてさて鯉伴は解っているのかいないのか。



 そんな夫婦の部屋を仕切る障子に耳をくっつけて中を伺う一人息子•リクオ。
 すっかり夜の姿になっている事も忘れ、当然畏れを発動させる事も忘れて聞き耳を立てていた。
 魑魅魍魎の主•ぬらりひょんの血は出歯亀の血でもあった。



 あまりにもブランクがあり過ぎて、至る所で不具合が出てしまう二代目。彼が我が家に馴染む日はいつか!?





 つづく



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